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[本]名もなき毒

宮部みゆき著


予約したことも忘れた頃に、「宮部さん?楽園がもう?」と思ったらこの本でした。そうそう、まだ読んでいなかったんだ。ちなみに今日の時点で「楽園」まだ270人待ちです。
私にとっては「ブレイブ・ストーリー」から約1年振りの現代ものです。結局時代物の方が好きなのかな?
一寸「ブレイブ」を思い出したのは、この作品もテーマの芯にスパイラル状に物語が蒔きついているという構造を感じたからでしょうか。
人の持つ毒、人が人に投げつける毒が文字通り毒殺事件の周りで回転しながら、人の持つ毒にスポットライトが当たっていく・・・人間が根源に持っている闇を順繰りに抉り出して行く・・・という風に読めたのですが。
丁度先週読み終わった「まほろ駅前・・・」とある意味正反対じゃないかとふっと思ってしまいました。
まほろ駅前ではどんなに毒され孤独になった魂にも触れ合う温みが何かの変化をもたらす・・・という善なる気分が感じられて嬉しかったのですが、今週は逆転しました。まっさかさまに転落!
だって主人公が繰り返しいわれることは「人がいい!」です。
彼の特性はそれに尽きます。彼なりの困難はあっても人目には幸せを具現している、他人に悪意のない、心栄えも心配りも‘いい’人。誰からも好意をもたれる人で、その人の周りにさえいわれも無い毒が忍び寄ってくる。本来来るはずの無いものが降ってくる。
これは何だ?です。
最初の毒殺犯の毒は想像力の欠落、他人を思いやれない心が振りまく毒。次の犯人は人間の欲が招く毒。そしてまるでその気は無かったはずの内気な青年が落ちてしまった世の中への恨みが招いた毒。黒井次長のいじめに会った娘が受けた毒。シックハウスとか土壌汚染とか社会が招く毒。人が生きていく中で否応無くぶつかる可能性のある毒が網羅されてねじ合わされて、その中心にどうにも説明の付かない「原田いずみ」という毒が大黒柱のように突っ立っている。
性悪説の具現化した魔物みたいに!
しかも読んでいるうちに心の隅に「あるある!いるいる!」に限りなく近い同意みたいなものが生まれ来てやりきれなくなる。イヤ!認めたくない・・・だけど底に忍び込んでくる肯い。
「いい人」「恵まれている人」「羨ましい人」「自分より何かで勝っている人」そのものが回りに全く責任も無く振りまく「毒」!果たしてそれを毒といっていいものか?ノン、絶対にそう呼んではならない。だが格差が広がっていくばかりのこの社会で、人は果たして憎悪を生み出さずに生きていけるのだろうか。
嫉妬や羨望や焦燥から毒を自分の中で醸してはならない。それは十分分かっている。
しかし「原田いずみ」毒は完全否定できずに社会に確かに存在すると肯って、これは人類発祥時から人類に課せられた業なのだろうか?なんて考えてしまったりしている。昔理科の遺伝の法則を習ったとき教えられた「劣性遺伝子」ばかり生み出す家系の事を不意に思い出した。ま、それは別問題か。
人間の遺伝子の中に時限爆弾のように組み込まれている悪意がどんなに愛情深い親の組み合わせの下でも無作為にポコッと産み落とされる。それこそが普通の人間には思いもよらぬ「原田毒」?それはもう神の悪意かも。
さて、最後のページです。救いと見えますか?毒消し役を志すということは・・・ねぇ、神にたてつく永遠の人間の無駄な抗いにも見えるのですが・・・北見氏も杉村氏も・・・一人ではねぇ・・・読んだ人皆が解毒剤に成るという道がある?・・・う~ん・・・

          

           

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