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[本]母の愛(与謝野晶子の童話)

与謝野晶子著


与謝野晶子さんに童話があることを今まで知りませんでした。
でも図書館でこの本を見つけたとき意外ではありませんでした。
だって11人もの子供を育てた偉大なる母としての彼女のイメージはしっかり頭にありましたもの。そして彼女は情の人と言う印象も。
夫への子供への愛情の濃さではどんな女性にも退けを取らないと言うか全ての女性を凌ぐと言う感じもしています。
だから母としての彼女は子供にお話をいっぱいしただろうと言うことは想像に難くありません・・・と言うわけで読み始めました。
編集の松平盟子さんの所々に入る解説によれば、まさにそのとおりで最初の童話は子供たちへのものだったようです。
収録されていたのは短いお伽噺が6篇、自伝的エッセー「私の生い立ち」童話「環の1年間」「八つの夜」「うねうね川」「行って参ります」ですが童話は全編を収録していないのです。中の何篇かずつの収録です。ですから少し喰い足りない思いなのですが編者の解説の通り確かに?余り面白くないお話も、纏まらないお話もあるのです。
でも私が一番心を引かれたのは全編を通じて感じられる言葉の美しさでした。全ての文章が子供に聞かせるために磨きぬかれ、選び抜かれたように品がよく丁寧で美しいのです。
それが特に生きていたのはお伽噺のうちの「紅葉の子供」と「私の生い立ち」の中の「西瓜燈籠」でしょうか。この二編は声に出して静かに読み心が洗われるような気分を味わいました。
なんと言う節度の感じられる文章なんでしょう!と私は感じ入ってしまいました。先日一寸必要があって本当に45年ぶりくらいに森鴎外の「高瀬舟」を読んだのですが、あの作品もそうでしたが文章の薫り高さがもう抜群に見事なのです。勿論与謝野さんの子供向けの文章と鴎外の磨き抜かれた文とでは重みに違いはありますが。
どちらも声を出して読むと私の言う意味が判ってもらえるかもしれません。与謝野さんの童話は心から優しくなれますし、「高瀬舟」では心が高揚してしかも深沈ともしてもいくようです。そしてその底に美しさが感じられると言う点で通じるところがあるようです。
時代でしょうか?
童話では「八つの夜」が今の子供たちにも十分楽しく読めるのではないでしょうか。「変身ものですよ!」と言えば読んでくれる子がいるかもしれませんね。小学校で朝の時間に1話ずつ読んであげたいような気がしています。
そういえば「行って参ります」の中に「山椒大夫」が「三舛太夫」ともじって出て来ましたよ。お二人は親交があったのですから鴎外さんは笑ったことでしょうね。

          

           

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