[映画]ボビー
監督 エミリオ・エステヴェス
出演 アンソニー・ポプキンス、イライジャ・ウッド、マーティン・シーン、シャロン・ストーン、ヘレン・ハント、デミ・ムーア、ハリー・ベラフォンテ、クリスチャン・スレーター、ウィリアム・H・メイシーリンジー・ローハン、ヘザー・グレアム
あの時代を記憶している・・・といっても、もう何枚もベールを重ねた向うだけれど。それにボビーの兄のケネディ暗殺のニュースの時の衝撃も忘れていない。ケネディ家はそれまでがどんな栄華を重ねてきてあれだけの家になったのかは知らないが、ジョン以後悲劇の家として永遠にアメリカの歴史に残るだろうということは確かだろう。
でも、この映画はJ・F・ケネディ暗殺に関して作られた幾つかの映画のように暗殺犯人を割り出そうとするような映画ではなかった。ボビーの暗殺当時のアメリカの普遍的な?ホテルの一日を、日常を描いているのだ。あの日のアメリカ人たちを!
あの日、あの時・・・不思議なことに私にとっては、登場する俳優たちそのものがあの時の具現のような感じだった。
アンソニーはいつもながら柔らかな存在感を表現できる最高の役者さんだし、彼がいるだけでそこには暖かさをまとった懐かしさが醸しだされる。古きよき時代だったような。でも実際は暗殺が行われた時代だったのだ。普通の時間の中に紛れ込んだ異常。平和な日常の中に突如として起こるテロのような。アメリカは変わらないし、世界は変わらない。そこに住んでいる人間も変わらない。過去は今に他ならない。映画が描いているのはそういうもののような気がした。
けれど、シャロン・ストーンとデミ・ムアの今の姿は私には失われた時間の経過を如実に思い知らせる。「あぁ、なんと時が立ったことか!」世は移り人も移る!彼女たちは円熟して昔の美しさを私に思い起こさせる。なのにアメリカは円熟していかない。彼女たちの栄光はまるで過去のアメリカの栄光の様。しかし新しい人、若い女優たちが又彼女たちの栄光の道をちゃんとなぞってゆきつつある。時代は進み変わってゆく!
しかし不思議なことには男の俳優さんたちにはそういった感慨がわかなかったのだ。ウィリアム・H・メイシーもマーティン・シーンも代わり映えしないしアンソニーの老成もイライジャの子供っぽさも感慨にはならない。
男が変わっていかなければ世は変わっていかないのかも・・・って、理不尽な考え方だけれどふとそう思ってしまった。
あの地でアメリカンドリームが伝説である間は、夢を見続けられる人と夢から醒めた人がいる間は、いや只単に人間が踵を接して生きている間は日常と異常は常に背中合わせ?
それを丹念に見せてくれた後にかぶさるボビーの演説!
永遠に色あせない希望!やっぱり人は希望が欲しい!理想を抱きたい!良心もある!絶対ある!