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[本]深追い

横山秀夫著


この本は再読です。なぜかというと先日「影踏み」を読んだのですが、それで思い出したのです。確かこの短編集にも「泥棒さんの話があったぞ」というわけです。三ツ鐘市という架空の市の市役所斜め向かいにある三ツ鐘警察署の刑事たちの物語が表題の「深追い」を含めて7編収められています。
横山さんの作品の中でも私の好きな警察官ものの一つですが・・・この中に「引き継ぎ」という作品があるのです。
言ってみれば、この作品は丁度「影踏み」のポジ?「裏返し」みたいだと思い出したのです。
あの作品では泥棒になった主人公が「盗犯」係りの警察官と渡り合うという部分がありましたが、この作品ではその「盗犯係り」のいわば泥棒刑事の側からの物語なのです。
丁度この「影踏み」と「引き継ぎ」を続けて読むと警察と泥棒のなんともいえない間柄・・・って言っちゃいけないかな?が見事に立体的にちゃんと三次元で立ち上がってくるようで面白いです。
刑事といっても、泥棒といっても、つまりは人間なんだなぁ・・・という当たり前のことが腑に落ちるといってはつまらないですが・・・いや実に面白い「ワールド」が厳然とあるようですよ。
そういえば我が家に、一度だけ私が小学校1年ぐらいの時(昭和29年頃?)に泥棒さんに入られたことがあります。侵入口はお便所の上の小さな窓でした。鍵をかけ忘れたのですが、小さな窓ですよ。やってきたおまわりさんが侵入口はここだと断定して、私はその小さな窓に向かって「嘘だぁ!」と思ったのを覚えています。大人が潜り抜けられるとは思えませんでしたもの。
母が箪笥を開けるまで全く気が付かなかったほど痕跡は無く部屋はきれいだったのですが、警察で盗まれた物を書き出した母が後で仰天していました。盗まれた物はあらかた父と母の着物でしたが、あの量をふろしき包みにしては絶対便所の窓からは出せないし、一人でいっぺんには持てないくらいの分量でしたから。いったいどうやったのでしょう、謎です。私が忘れられないのは買ってもらったばかりの舶来の真っ赤な私のレインコートも盗まれていたからです。父が「きっと泥棒さんにも可愛い女の子がいるのかもなぁ・・・その子が喜ぶかもなぁ・・・お前はまたいつか買ってもらえるのだから・・・」なんて慰めてくれたっけ。後日質屋で足がついて警察に出向いた母は書き忘れた着物が何点か出てきておまわりさんに叱り飛ばされたらしいです。
あの泥棒さんの手口も「泥棒刑事」さんだったら直ぐ当りがついたのかもしれませんね?・・・と、横山さんを読んだ後の私は思いました。
浅草のロックで年末(林家正蔵の会の帰り?)に父が掏りにあったこともあります。オーバーの下の背広の内ポケットの下(裏地)を鋭利な刃物できれいに真一文字に裂かれて財布だけすっぽりやられたのです。警察のおまわりさんがその切られたところを見て「あー、何とかだ!」と名前を言ったと父が言っていました。今なら?これもよくわかりますね?ひょっとしたらその「誰とかさんという掏り」はその刑事さんの、その盗犯係りの「手持ち」だったのかも?なんて。
そんな事を思い出しながら興味深く再読したわけです。
ちなみにこの短編集では「訳あり」と「仕返し」と「人ごと」が好きでした。そして「影踏み」を読んだ後では「引き継ぎ」も「好き」なうちに入れようかな。

          

           

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