[本]海
小川洋子著
「海」「風薫るウィーンの旅6日間」「バタフライ和文タイプ事務所」「銀色のかぎ針」「缶入りドロップ」「ひよこトラック」「ガイド」
短編7つ
ふう~んと、本を置いた。
妙に不満なやり場のない気持ちを抱えていた。
何ていったらいいのだろう?小説を堪能した心地に乏しいのだ。
「和文」と「ガイド」は楽しんだ。「ドロップ」もいいかも。
でもねぇ・・・小川洋子さんで無かったら本にはならない作品じゃないかなぁ・・・と思ったことに不満な感じはあったのかもしれない。
もっとも、この作家はまだ「博士の愛した数式」に続いての二作目に過ぎない。
この作品を読み終わって、なぜか唐突なんだけれど、藤沢周平さんの「江戸おんな絵姿十二景」(「日暮れ竹河岸」という文庫本に収録されている)というのを思い出した。
似たものがあるわけでは全くない。が、読み終わったときの感情にちょっと思い出すものがあったのだ。
勿論藤沢さんのその作品は1枚の浮世絵に主題を得てごく短い話を作り上げると言う趣向の作品だった。
だが、その余りにも短い話は作家にほっと投げられたものの軽さに受け取ったものがたたらを踏むといった感じがあった。
投げ出された物はほんの切り取り断片で、受け取った私は主人公の周辺から遡って思い煩ったりこの先のことを想像したり・・・忙しい作業に放り込まれてしまった。投げだされたものがしっかりと色合いを持っているのでそのままそこでうち捨てには出来なかったのだ。その浮世絵を見ていない私には主題となった浮世絵まで頭の中で創造しなければならなかったので。
この作品で、そんな事を思い出させられた。
この作品にも後を付け足したい気持ちにさせられたからだろうが、どこかでそれじゃぁずるすぎるでしょう・・・?という気が頭をもたげている。この本では作家の趣向が感じられないからかもしれない。
どれもが独立していて互いを知らないと嘯いているような。
同じ情緒があれば読み重ねていくうちにその世界に包まれてゆくと言うことも出来ようが・・・。
書かれている作品の文体が奏でるトーンは兄弟だよといっているようではあるのだけれど、それだけじゃぁ、何かが淋しい。穏やかな良く出来た情緒の安定した優しい人たちよねぇ・・・で、どう想像の羽根を羽ばたけばいいのかな?どうしようもないじゃないのさ、それこそ断章に過ぎないのだものって。ページを広げて羽根も広げる準備をしたのに・・・え?ええぇ・・・?
だから「和文」で妙にほっとして、ほっとする作品ではないのに・・・と、おかしくなった。次に彼女が壊す活字を想像するのもちょっと淫靡で?いいんじゃないでしょうかね?他にも・・・。と言うわけで、この作品の醸す世界は好きですねぇ・・・でも作家っていいなぁ・・・使いにくい字を実に楽しげに使っていて・・・小川さんはきっととても滑稽な発想をする脳細胞を持っていて、それに生真面目そうな見せ掛けカバーを巧妙にかけられる人なんだ?