[本]天使のナイフ
薬丸岳著
大体何とか賞というものには惹かれない時流に疎い私で、読書は大抵古典が主体。そんな私もそろそろ大曲りの年頃?少し気分も若返るため、それでもちょっと遅れ目?ですが新しい作家というか今まで縁が無かった作家の作品にも目を向けてみよう・・・ということで。
この作品は新聞の下段の広告で「犯罪被害者と少年法」に迫った第51回江戸川乱歩賞受賞作という惹起文に惹かれての選択です。
江戸川乱歩賞というのは知っていましたが始めてその賞の作品を読みました。
巻末の歴代受賞者の作品一覧を見ても読んだ物は一冊も無いようですし、作家も知らない方がほとんどという有様です。
でもこの作品は興味深く読ませてもらいましたから、この作品群の中から名前を聞いたことがある方たちの作品を順に遡って読んでみるのもいいかな?と思っています。この受賞者の皆さんは今も活躍していらっしゃるのでしょうか?大体選者の方からして大沢在昌さんしか知らないんですから。汲むべき泉はいっぱい潜在しているってことですね、私にとっては。
この作品は作者の始めての小説のようでしたが、この長い作品をよく破綻させずに纏め上げたものだと感心して読みました。初めての小説ですよ?!
プロットはしっかりしているなぁ、最後にいたる伏線もきっちりしているなぁ・・・と思いながらも文体に堅苦しい読みにくさがあって、でもそこが初々しい作品の持ち味かとも思いました。
決してその感じは不快なものではありませんが、表現が直截すぎて、じんわりと感情移入していく緩やかさが少し欲しいと感じました。
主人公の気持ちを押し付ける言葉が多いという感じでしょうか。
主人公の気持ちは痛いほど分かります。
むしろそれが分かるからこそこの本を読んでみようかという気になったのです。なぜなら今現実のこの社会は若い子の犯罪におびえているところがありますもの。
注意してあげたいと思うことが一歩町に出るとひしめいているのに、怖くてそれが出来ない社会です。
その連鎖が又怖い子を産んでいくのだと承知していますが、今目の前にいる子供が私の一言で切れないという保証はどこにも無いのが現状です。
そんな子供たち、心は幼くともすることは一人前に悪いという犯罪を見て厳罰以外の何を望めるのか・・・って思うこともしばしばです。
家庭に戻したとして機能する家庭かどうかどうやって見極めたらいいのでしょう。そんな時代にしてしまったのは何故でしょう?
考えなければならない事を実に上手にこの作品は提起していましたが結末のつけられない問題で、おかれた立場で意見は千差万別でしょう。被害者にならなければ被害者の心は分からない!でも加害者になって加害者の気持ちがわかるようにだけはなって欲しくないと願います。今の社会に意味のある作品だと思いました。
愛情をいっぱい受けた子供でも犯罪に押しやられる、または犯罪者にすすんでなることは多いですし・・・3人の少年のうち一番家庭がしっかりしていそうだった犯人の少年の事をつい考えてしまいます。
そして祥子さんの人生をそっと撫でてあげたくなりました。
可塑性ですか?なんという可能性を秘めた言葉なんでしょう。この言葉が生きる事を願いますが。