[本]隠し剣秋風抄 「盲目剣谺返し」
藤沢周平著
この作品は短編集です。
沢山、それこそ山のようにある周平さんの短編集から今夜これを書こうと思ったのは先日、ある出合いがあったからです。
といって出会い・人とではありません。
「場所」とです。
夫の趣味は「城址めぐり」
で、お天気の良い休みには、また纏まった休みが取れると、行く先はどこかの城址ということになります。
もう自分のホームページで行った城の記事を250城以上掲載しているくらいですから・・・
私なんかもう残っている城跡は無いだろうと思うのですが、彼に言わせると「まだまだ山のようにある。」そうなんですね。
うへぇ!です。
その日行った城跡は「笠間城址」茨城県にある城です。
一応山城ということで、また道なき道、草生す空濠、ぐちゃぐちゃの堀切などを歩かされるのだろうと、諦め顔で付いていったのですが、大手門の千人溜まりまでは車で行けたし、ちょっと登った本丸跡は笠間市も一望でき、筑波山も望めるロケーションで、おまけにこの城は「桂城」という別名も持っているのです。
はっきりとした根拠は何も無いくせに私は別名を持った城に甘い!
というわけで、ここですでに非常に好意的になったのですが、本丸から天主に登る道を見つけるにいたって、私はこの城跡が好きになったのを感じました。
なかなか感じのよい苔むした石垣と石段が目の前に立ちはだかっているのです。
「この上の天主跡には「佐志能神社」があるはずだ。」
それで登り始めたのですが、そこでどたばた下りてくる人たちに遭遇しました。
こんなところでおやおや?です
写真を撮るのに邪魔(失礼)なので、よけて皆さんが下りきるのを待ったのですが、途切れないのです。
反対にまたどんどん上がってくる人たちがいて、それがなんと色々な工具や木の枝、それも葉っぱの付いた生木の大枝の束を担ぎ喘ぎながら上がってくるのです。
ここにいたって私たちは諦めて天主への風情のある道を風情の無い?人等を縫って歩く事態に。
そして上がってみたらなんと天主跡の神社の額を「八目神社」と書かれた額に付け替えているところだったのです。
「えぇえ?」
だから思わず「何をしていらっしゃるんですか?」
「アァ、映画のロケの為に一時的に付け替えさせてもらってるんです。」
それで生木の役割も了解!映画のこの場面の季節は夏なんだね?
「何の映画なんですか?」
「キムタクの武士の一分っていうのですけど、キムタクはここへはこないんですよ。」と、彼は機先を制す。「分かっているのね?」
それでもちょっとわくわくするじゃない?
というわけでこの映画の情報収集。
この本へ行き着いたというわけなんです。
この藤沢さんの短編集「隠し剣秋風抄」の最後の短編「盲目剣谺返し」がその映画の原作になるのです。
確か・・・と、本棚の奥を探り・・・この本を引っ張り出したと言うわけです。
面白い短編集でヒーローは皆格好悪くてヒーローともいえない。
けれど皆生きているような実感がある人間像で溢れていて、私の好きな短編集の一つだったのです。
この作品のヒーロー?の中ではこの原作になる盲目の剣士は一番格好いい!
「なるほどな!」である。
皆さん、こういっちゃなんだけれど、ご自分のお父さんか旦那様を彷彿させる人に出会うかもしれませんよ。
もっともその人が意外な剣の名手であるかどうかは別ですけれどね。
でも人生って「あぁ、こういうことってあるんじゃないかなぁ。」と思う身近さと、意外な彼らの奮闘とに溜飲を下げたり悲しんだり惜しんだり・・・様々に楽しめる意外性のある短編集なんです。
映画の原作になる作品は周五郎さんの「日本婦道記」の中の一つをちょっと思い出させるのですけれど、気持ちのいい読後感があります。
私の好きな1篇は「孤立剣残月」なのですが。
読み終わったあとに心地よさがすとんと心に収まって据わりがいい感じなんです。
夫婦の機微がなんとも「わかるなぁぁ・・・!」
・・・そして私も唇を「いっー」の字にしてべそをかきたくなるんです。
でも、来年正月?映画が公開されると、「盲目剣・・・」読む人が続々・・・続々・・・?
どうぞ「孤立剣・・・」の方もお忘れなく!